全国民への現金給付「自民党も一時検討」…待望する声もある一方で「なぜ効率が悪いのか」経済アナリスとが解説

国民が止まらない物価上昇に苦しむ中、石破茂首相(自民党総裁)の“失政”が続いている。食品の値上げラッシュやコメ価格の高騰が家計を直撃していても「財源ガー」「国債ガー」などと言い重ね、大規模な経済対策を打つ気がないのだ。消費税減税や現金給付策といったカードは早々に手放し、またも低所得者対策で“お茶を濁す”構えを見せる。経済アナリストの佐藤健太氏は「現金給付策は効果が乏しいと言われているが、ならば減税策を打ち出すべきだろう。このままでは『無策の宰相』として歴史に汚名を残す」と厳しい。
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自民党が消費税減税を打ち出すことは期待できない
「必要があれば、秋に補正予算を組まなければいけない。検証しながら景気対策をやるのは当然だ」。自民党の森山裕幹事長は5月15日、経済対策の裏付けとなる補正予算案の編成を検討する考えを示した。今や“影の総理”といわれるほどの最高実力者になった森山氏の発言は重い。ただ、気になるのは「国際的に信頼を得るためには財政規律を守っていくことが大事だ」とも語っている点だ。
森山氏は東京都内の講演で「社会保障の財源である消費税をゼロにすると言っている政党もある。食品だけゼロにすると言っている政党もある。そうした時にわが国の財政がどうなっていくかということは、真剣に考えておかなければいけないのではないか」と指摘したのだ。
消費税減税よりも財政規律を重んじるスタンスは現在の自民党執行部に蔓延している。石破首相も5月11日のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」に出演し、消費税減税について「国の財政はどうなるのか」と疑問を示した上で、「本当に困っている人に対する支援は、他のやり方はないのか。本当に消費税を下げることだけなのか」と語った。自民党の麻生太郎最高顧問も5月15日の派閥会合で「ポピュリズムに流されることなく、過去、現在、未来に責任を持つ保守政党としての誇りを見せたい」と述べている。もはや、政権与党の自民党が消費税減税を打ち出すことは期待できないだろう。
ただ、自民党の参院議員には消費税率の引き下げを求める声が強い。松山政司参院幹事長は「消費税率の引き下げを求める意見は8割と大きな数だった。その中で7割は食料品の税率引き下げを求める意見だった」と明かしている。財源としては、税収上振れ分や外国為替資金特別会計を利用すべきとの声が出ているという。
自民党税制調査会の動きは鈍い
2025年度当初予算は、77兆8190億円と過去最大の税収を見込む。自民党の平沼正二郎衆院議員ら若手・中堅議員による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は4月、米国のトランプ関税や物価高の対策として、食料品などを対象とする消費税率を「恒久的にゼロ%とする」よう申し入れる方針を決定。「単発的な給付を繰り返すだけでは国民の消費性向が上がらず、デフレからの完全脱却のタイミングを逃す」と指摘した。
積極財政派として知られる自民党の高市早苗前経済安全保障担当相も5月13日に配信されたインターネット番組「虎ノ門ニュース」で、「賃上げのメリットを受けられない方々にも広くメリットがあるのは、食料品の消費税率を0%にすること」とした上で、石破首相が慎重姿勢を崩していないことに「かなりがっかりしている」「『それはしない』という答えがトップから出てしまったので、これは残念だ」と語った。
ただ、自民党税制調査会の動きは鈍い。5月15日に開かれた税調幹部の勉強会では消費税減税に関して「相当大きな問題がある」との認識が共有されたという。宮沢洋一会長は「正直に言って、実務的にも財政的にも大変厳しい」と説明している。自民党は夏の参院選で社会保障の財源である消費税減税には触らず、「責任政党」としての姿勢を前面に出す構えだ。ただ、主要政党は消費税率の引き下げで足並みがそろい、与党・公明党の斉藤鉄夫代表も「経済政策の骨格は減税」と積極姿勢を見せる。
立憲野田代表「財源を見つけようともしないで、よく言うな」
立憲民主党の野田佳彦代表は5月11日、「財源を見つけようともしないで、よく言うな。給付もしない、減税もしないと、何もやらないということだ。無策ではないか」と批判。国民民主党の玉木雄一郎代表も5月13日の定例会見で「自民党は、こと消費税になるとハードルが10倍くらい上がり、まったく消費税減税はできませんとなる」と皮肉った。
政府・自民党内には一時、国民一律の現金給付案が浮上した。所得制限を設けず、3万~5万円を給付するプランで、ネット上には「ようやく重い腰を上げたか」と一部で歓迎する声があがった。だが、この案が報じられると「参院選対策のバラマキ」と批判され、一気に萎んでいった。何より、現金給付の消費喚起効果は疑問視されているからだ。
1人あたり5万円を給付した場合のGDP押し上げ効果は0.25%
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが4月14日公表した試算によれば、1人あたり5万円を給付した場合の国内総生産(GDP)押し上げ効果は0.25%にとどまる。このケースは総額6兆円規模で、消費税率2.5%程度減税できる計算だ。消費税率の引き下げの場合は名目・実質GDPを1年間で0.51%程度押し上げられるという。押し上げ効果は、現金給付の2倍超というわけだ。また、消費税の軽減税率を一時的に「ゼロ%」にすると、年間5兆円程度の減税になり、1年間で0.43%程度押し上げる計算という。
現金給付策は過去に実施されたが、「消費喚起効果」は乏しいというのが常識となりつつある。リーマン・ショック後(2009年)に麻生太郎政権が実施した1人あたり1万2000円の定額給付金は、多くが貯蓄に回ったと批判された。2020年の安倍晋三政権下では国民一律10万円の特別定額給付金が配られたが、消費押し上げ効果は2割程度にとどまったとされる。自民党の有力者である麻生氏が給付金の効果に否定的なのは、十分に消費に回らなかった過去の経験があるからだろう。
では、政府・自民党は物価高に苦しむ人々にどのような支援策を打つ可能性があるのか。最も考えられるのは、低所得者対策にとどめるプランだ。石破政権は昨年11月に決定した総合経済対策で、物価高の影響を受けている住民税非課税世帯を対象に1世帯あたり3万円を支給することを決めた。また、対象世帯のうち子育て世帯には子ども1人あたり2万円を加算し、自治体に応じた対策に充てる「重点支援地方交付金」を活用することにした。つまり、対象を「住民税非課税世帯」に限定することによって、必要となる財源を最小限に抑えたい思惑が透けて見える。
エンゲル係数が高いシニア層は食料品や生活必需品が高騰すればダメージを受けやすい
約1300万世帯と推定される住民税非課税世帯は、①生活保護法による生活扶助を受けている②障害者、未成年者、寡婦、ひとり親で前年の所得が135万円以下③それ以外の人で前年の所得が市町村の基準以下―の3つが当てはまる。「それ以外」の場合は扶養家族の有無によっても異なり、家族がいる場合は月収20万円でも非課税世帯となる場合がある。
生活扶助を受けている人や障害者、ひとり親の世帯は特に物価高の直撃で困窮するケースが目立ち、手厚い支援がなされるのは当然だ。ポイントは、非課税世帯の7割超が年金生活世帯となっていることである。年齢別の割合を見ると20代が2割超、30代から50代は約1割にとどまっているが、65歳以上のシニアは75%近くに上っている。これは「公的年金等控除」(110万円)によって年金生活者が非課税になるケースが多いためだ。年金生活者は、現役世代のように賃上げの恩恵が得られない。エンゲル係数が高いシニア層は食料品や生活必需品が高騰すればダメージを受けやすいのも事実だ。
国民の血税を還付できない国家は「一人前」と言えるのか
もちろん、その必要性を否定するつもりはない。だが、エンドレスになるような錯覚に陥る足元の物価上昇をにらめば、深刻な影響を受けているのは住民税非課税世帯だけではない。とりわけ、先に挙げた非課税世帯の条件をわずかに外れ、ギリギリの生活を強いられている世帯は辛いものがあるはずだ。
たしかに財源の裏打ちがないものは将来世代へツケを回すとの理屈はわかる。だが、過去最高の税収を誇りながら国民の血税を還付できない国家は「一人前」と言えるのだろうか。もはや、今の状況のままでは低所得世帯に対象を限定にした給付金だけでは国民の理解が得られるとは思えない。
野党第1党の立憲民主党は夏の参院選公約で物価高対策をはじめとする経済対策や将来不安の解消プランを打ち出す構えを見せる。国民民主党は消費税率を時限的に5%に引き下げる公約を掲げる方向で、日本維新の会も期間限定で食料品の税率をゼロ%にすると訴える方針だ。
今夏の参院選は「消費税減税」が主要争点になるのは間違いない。政権交代を賭けた戦いに自民党は「竹やり」で挑むつもりなのか。「無策」「決められない」といった批判がつきまとう石破政権に対し、国民から「NO」が突きつけられる可能性は日に日に高まってきているように映る。